「タダイマトビラ」
村田沙耶香さんの「タダイマトビラ」。
主人公は狂っているように見えるけれどとても一貫した思考で生きて育っていて、そのせいかするする読めました。ネグレクトや虐待に対し子どもが憎しみをもつ展開が苦手なのですが(リアリティがないように感じる)、このお話ではすがすがしいほどに順応しているからよかった。子どもはどんな家庭でもその家庭で育つしかないから、歪んだ家庭でもある程度は適応してしまうと思うんですよね。そして周囲が哀れんでも、自分のことを不幸だってそんなに思わない気がする。それが自然な気がします。主人公の対比として弟がいるのもよかったです。
「脳をだます」ことに、誰しも一度はあこがれたり興味をもったりすると思うんですが、みんなそこまで没頭することはできずに諦めると思います。脳をだましきれないからです、そのうち「なにやってんだろ」という気持ちになるのがオチ。しかし主人公はそこに没頭してしまう。文庫で読んだんですが、背表紙の説明に「人間の想像力の向こう側まで疾走する」とあってものすごくぴったりな表現だなと感動しました。疾走した結果が動物としての人類、というのもすごくよかったです。妥当というか、腑に落ちる結論なので。
これを読む前に「ギンイロノウタ」を読んでしんどくなっていたのですが、「タダイマトビラ」で元気になりました。「ギンイロノウタ」、自己肯定が微塵もできずに女の性的魅力にすがろうとしてしまうのがほんとに読んでて胸糞悪かったです。お話はおもしろかったです。でも背表紙の説明がオイオイちゃんと小説読んだのか?みたいなズレた内容でした。