「すべて真夜中の恋人たち」
川上未映子さんの「すべて真夜中の恋人たち」。
主人公はぼんやりとしていて冴えない校閲者。彼女なりの感性がしずかに描かれる小説かなと読みすすめていたら純粋なラブストーリーが展開され、かなりときめきました。ほんとうにゆっくりとした彼女のペースで恋心が育ってゆくのです。淡々としていて不器用で、感情があまり表に出なさそうな人だからこそ、本能的な愛情や秘めた想いの強さが迫るように想像されます。
冬子、三束さん、聖、聖を評する恭子と、いろいろな人が出てきて話したり話さなかったりするわけですが、読み終わって振り返るとみんな弱い部分がきちんと描かれていて人間らしいです。聖が冬子に言いたい放題して結局どっちも泣く場面なんてもう一緒にわーわー泣いてしまいました。二人とも弱い部分が傷ついて泣いてるのに少しずれていて、それもまた悲しくて。読んでいるときは何が悲しくてどうして泣くのかわからないままぐちゃぐちゃに泣いてしまうんですけどね、子どもみたいに。泣くにしてもこういう泣き方をさせる文章ってなかなかないなと思います。自分の無防備な部分が引っぱりだされて晒される感じ。読む人の琴線によるとは思いますが、個人的にはこの場面がいちばん印象的でした。
それとショパンの子守歌を聴いているときの描写!きらきらしく光にみちて天国のようにたおやかでした。読んでいるだけでうっとりしてしまいます。ああいう描写を切りとってあつめて、いつでも取りだせるよう身につけて生きていたいものです。